あなたはアン派?それともナンシー派?・・・〜Heart『Japan Jam '79』〜




[Shades 473]

Disc 1
01. Intro
02. Cook With Fire
03. High Time
04. Heartless
05. Devil Delight
06. Straight On
07. Even It Up
08. Magic Man
09. Love Alive
10. Magazine
11. Mistral Wind
12. Dog & Butterfly
13. Silver Wheels
14. Crazy On You
15. Barracuda
16. Rock And Roll

Live at Enoshima, Kanagawa, Japan 4th August 1979

Disc 2
01. Intro
02. Cook With Fire
03. High Time
04. Heartless
05. Devil Delight
06. Straight On
07. Even It Up
08. Magic Man
09. Love Alive

Disc 3
01. Magazine
02. Mistral Wind
03. Dog & Butterfly
04. Silver Wheels
05. Crazy On You
06. Barracuda
07. Rock And Roll
08. Without You

Live at Enoshima, Kanagawa, Japan 5th August 1979


自分が中高生だった頃、音楽はまだ重要なコミュニケーションのツールとしての役割を担っていたよう思うのです。どんな音楽を聴いてるかを尋ねることは、個人的な趣味の確認を越えて、その人がどんなタイプの人間かを大まかに判断するための合言葉のようなものだったんじゃないかということです。現在のヤングたちはどうなんでしょうか?これは時代の移り変わりによって変化することでもあり、個々の人間が成長することによっても変化していくことでもあります。いい年こいて結婚もしてない、酒も飲まない、行きつけの店といえばブート屋だけ、そんな引き出しの狭い人間は「何を楽しみに生きてるのか?」と訝しがられても当然です。

意外といっては失礼かもしれませんが、高校生の時分、自分の回りでいちばん人気のあったアーティストはハートでした。誰かが買ったアルバムをダビングで済ませることも多かったなかで『Brigade』は各人の所有率も高かった記憶があります。ゴージャス時代のハート?いえいえ、ゴージャスと言えるのはギリ『Bad Animals』の頃までで、この頃にはアンのキャシー中島化も進行し、ゴージャスというよりも爛熟しすぎて腐りかけといった表現のほうが似合います。それでもさえない男子どもに人気があったのは、女性ボーカルにある種の癒しを求めながらも、ボンタンと裏ボタンが最高のオシャレだった「昭和の中坊」最後の末裔たる我々の精一杯の硬派気取りだったのかもしれません。ただ背伸びをして「ツェッペリンしかないだろ」なんてほざくことはあっても、その影響化にある初期のハートまでカバーするような学究心は持ち合わせていませんでした。


画像はハートの1979年の初来日公演、8月4日及び5日の神奈川県江ノ島特設会場でのライブを収録した『Japan Jam '79』です。

ゴージャス時代じゃないのかよ!と突っ込まれそうですが、『Brigade』期のブートにいまいちピリっとしたのがないことと、本作が高音質・初来日・珍会場と現代ブートレグが求める重要な要素のすべてを兼ね備えてるといっても過言ではないのであえて取り上げることにします。

「Japan Jam」とは1979年に江ノ島及び京都で開催された野外イベントで、我々の世代にはまったくといっていいほど馴染みがありませんね。自分には「イカ天」の審査委員長やMTV(そういえば光岡ディオンも人気あったなぁ・・・)の司会としての印象が強い萩原健太さんがビーチ・ボーイズがらみで話されていたのを聴いたことがあるくらいです。当時の画像を見ると、会場はステージに向かって海を臨む絶景となっており、天候にも恵まれ、実際に参加された方はものすごい高揚を感じたことと思います。その名は前年の78年に二回目が開催されハートも出演した「California Jam」から来ているのでしょうが、「J」の文字をイルカに見立てたロゴマークはじつに可愛らしく、当時のバッチなどのグッズがあったら是非とも譲っていただきたいところです。本作ではそれに合わせてハートのバンドロゴも白黒に変更したジャケットになっており、そのうねりはイルカや波の曲線と奇跡的なマッチングを見せて、なかなか秀逸なデザインとなっています。

イベントの出演者はザ・ビーチ・ボーイズ、ハート、ファイアーフォール、TKO、そしてサザンオールスターズロゴマークから伺えるイベントの特性にマッチしているのはハナとトリくらいで、そこらへんのコンセプトは曖昧だったことが想像できます。世界的な勢いで言えばハートはちょうどひとつめのピークを迎えており、実際このイベントでも美人姉妹目当てで足を運んだ人も多かったのではないでしょうか。

両日ともに「三十年以上前の野外イベントとしては」という言い訳を必要としないほどの高音質で収録されています。日本製音響システム「RAMSA」がこのイベントで御披露目されており、その技術を世界に証明しようと万全を期したことが、これだけ優れた録音を残せた大きな要因なのかもしれません。

ディスク1に収められた4日のライブには横須賀から駐日米軍が大挙して押し寄せ前列を占拠したとも言われており、冒頭から外国語の歓声が目立つこの音源は、かなり前のほうで録音されたのでしょうか、オン気味の迫力のあるサウンドで収録されています。演奏は特に奇をてらうこともなく淡々と進んでいるようにも感じますが、インタビュアーに「神経質なところがある」と言われたアンは、初めて訪れる異国の地で多少ナーバスになっていたのかもしれません。MCの声にも緊張が感じられる気がします。しかしさすがにアブラがのりにのっていた頃の演奏であり、ロジャー・フィッシャーの「高ぶる気持ちを抑えられなかった」との言葉通り、調子はどんどん上がっていきます。「Rock And Roll」でスピーカーの上に乗ってソロを弾いたと言う事実も、いちだんと大きくなる歓声を聴くとリアルに感じることができます。ただナンシーナンシー叫んでるのは絶対に日本男児だろうな。

ディスク2に収められた翌5日のライブでは、アンの緊張もほぐれたのか、冒頭からリラックスした感じでアウアウ叫んでおり、前日にはあまり聴かれなかった日本語交じりの煽りも飛び出します。しかし早口でまくし立てるMCに観客はまったくついてこれず、微妙な雰囲気を漂わせてしまうあたりに初来日の初々しさが感じられて可愛らしい。前日の音源と比べると距離を感じる録音ですが、それでもアンのボーカルはぐんとこちらに迫ってくるような通りのよさで、そのシャウトは会場を越えてどこまでも響き渡っていたんじゃないかと思われるほどの迫力です。この日は前日には演奏されなかった「Without You」でしっとりと締めくくられますが、この年を境に状況がガラッと変化していくバンドのその後を暗示するようなラストだと感じるのは思い込みが過ぎるでしょうか。

「Japan Jam」は翌年にもチープ・トリックをトリに第二弾を横浜及び神戸で開催したようですが、天候に恵まれず、かつそれを伝説として演出することもできずに終わったところなどは「Super Rock」と相通ずるものがあります。

ホワイトスネイクの『King Jam』の記事で少し書きましたが、本作は別のレーベルからCD-Rで発売された音源にリマスタリングを加えプレスCDとして再発売したものです。このあたりの業界の事情は私にはよく分かりません(カリビアンコムで配信されてキャットウォークでDVD化されるようなもん?)。本作にはラジオ放送された音源を収録したCD-Rがオマケとして付けられており、初回特典にはさらにデビュー当時のテレビ映像を収めたDVD-Rも付いていました。これにギフトでもらった『Brigade』期のDVD-Rを合わせるととんでもないことになります。




まるで「まんが道」で読み知る、別冊競争盛んだった少年漫画雑誌興隆期を思い起こさせますね。ブートレグ業界も客層の高齢化がささやかれて久しいですが、このあたりにロマンを感じるのも、自分が「昭和の中坊」に他ならない証拠なのかもしれません。